「死生学」とは「死」と向き合うことで「生」の意味を考えていく、それはまさしく「いのち」について考える学問です。死が人々の日常生活から遠い存在となり、死をタブー視していると言われる現代社会で、敢えて「死」を考えることによって「生(いのち)」について考える。そんな視点を与えてくれるのが死生学です。あまり馴染みのない死生学という学問ですが、「死生」という言葉から「死生観」を連想される方も多いのではないかと思います。
「死生観」という言葉は、1904年に加藤咄堂が「死生観」という著書で、初めて用いたとされています。この書物は全体を通して、ある死生観を是とする立場から、それとの比較によって、他の諸宗教・諸思想の特徴が捉えられ、全巻を通して「現代日本人は死にどう向き合って生きていくべきなのか」という問いのもとに叙述が進められています。当時すでに「死生問題」とは、知識人が取り組むべき重要な課題であるという意識が育ちつつあったようです。その後日本は、幾たびもの戦争を経験しました。戦時中には、若者が死を覚悟する上で、「死生観」「生死観」という言葉が盛んに用いられました。「無に直面する死」、「無残な死」にどう向き合うかが意識されるようになりました。
そして、1970年から現代においては、医療やケアの現場から「死生観」を問い直す動きが見られるようになりました。その背景には、医療技術の発達、病院死の増加が深く関係しています。そして、医療者は「死に向き合うにはどうしたらいいか」という問題に直面し、「死」の意味、「生」の意味を考える必要性が生じました。しかし、「死生問題」は医療者にとってだけの問題ではありません。日本において「死生学」を学ぼうという動きはこの頃から出てきました。このように考えると、「死生学」という学問は「死生観」と非常に関係が深いといえます。
<参考>
島薗進 竹内整一編(2008)「死生学[1]」島薗進『死生学とは何か』東京大学出版会
島薗進(2012)「日本人の死生観を読む 明治武士道から「おくりびと」へ」朝日新聞出版