みなさん、「KAIGOスナック」をご存知でしょうか。介護スナックと聞いて、どんなイメージを持つでしょうか。
2016年の4月29日に、東京の杉並区西荻窪(通称:西荻)にオープンした「KAIGOスナック@西荻窪」にお邪魔してきました。
「スナック」の名のとおり、そこにはドレスアップしたホステス&ホスト。バーカウンターでつくって振舞われるさまざまなお酒。テーブルには多彩なフード類。チーズや寿司、たらのグリーンソース、おでんまで。
ただ、このスクナックは巷のスナックにはない趣向がこらされている。ママもホステスもみな歯科医や薬剤師、栄養士、看護師など、医療介護専門職なのだ。お酒は、トロミ剤をつかった、つるんとした不思議なワインや日本酒、梅酒、コーラなど。フードは、歯がなくても舌でつぶせる、飲み込みづらくても食べやすい嚥下食。
お店は、普段は住民活動が行われたり、週末はお母さんたちの手料理晩御飯の食べられる地域の食堂で、その日だけスナックのように設えたのだそうだ。そしてお客さんはといえば、西荻周辺の地元の人たちで、飲み込みづらさを抱える人やその介護者の方々。そしてこの活動に惹かれた医療介護専門職の人たちもお客さんとしてにぎわいを盛り上げていた。
今回の「KAIGOスナック@西荻窪」は同所では二回目の開催とのこと。
三鷹市周辺の嚥下と低栄養について考え、市民向けの場作りやを行っている「三鷹の嚥下と栄養を考える会」の医療介護専門職の方々(代表は歯科医の亀井倫子さん)と、西荻で「ペイシェントサロン善福寺」という市民、患者、介護者のための対話の場を開きながら、ご自身も患者、母親の介護者という経験もお持ちの安永明生さん、そして西荻地域の市民活動の拠点であり、地域の食事処でもある「かがやき亭」という場を開いている方々の、医療者、患者介護者、地元のお店の人という三者と、周辺で巻き込まれながら関わる人々によって協働してつくられた場でした。
「嚥下障害の方(高齢や障害、病気など何らかの理由で食事や食べ物の飲み込みづらさをかかえている方)にも食べやすいお料理・飲みやすいお酒などを楽しんでいただきながら、嚥下障害・低栄養についての見識を皆様と共に深めつつ、老い・病気・障害とともに生きることを身近に感じて頂きたい、という思いをこめて開きました」
主催者の一人、亀井倫子さんが語る今回の企画のコンセプトである。
そう、ここは「楽しみながら、学び、ともに生きることを感じる」場なのだ。
この「スナック」という仕掛けが絶妙で面白い。そこでは、医療者、介護者はケアを提供する人ではなく、KAIGOスナックの「ホステス&ホスト」という役割を担って存在している。患者、患者家族はケアを受ける人ではなくお客さんとして、嚥下や低栄養に関わりのない地元住民も傍観者ではなくやはりお客さんとして、この「スナック」という空間に存在している。
僕の目に映ったKAIGOスナックという場は、ケアする側の医療介護専門職、ケアされる側の患者、傍観する側の住民、というケアの固定化した関係を崩す「舞台装置」としてのスナックであり、三者のスナックによる「協働」は一種の住民運動の芽となる可能性を持つ場でした。みんくるカフェの「対話」とは、また違った「食」を通した市民と医療介護専門職をつなぐ場づくりに出会った思いがした。
正直スナックとしては(スナックに行ったことがないので語れる資格はないが)、粗挽きな、手作り感が大いに出てしまっているざわざわした空間なのだが、だからこそいい、と思える。さまざまな立場の人が集まってつくる、「ブリコラージュ」というよりも「雑多さ」のあふれる、お祭り、あるいは住民運動ともいえる価値が、このKAIGOスナックにはあると感じられた。こうした医療介護の固定化した関係性を変える舞台装置が、街のいたるところに時間、空間的に発生していくと、日本の医療介護は面白いことになるのではないかな、と期待している。
そして、みんくるカフェの提供する「対話の場づくり」も、こうした舞台装置のひとつとして全国各地で機能していければと改めて思うのです。